◆間奏「一番長い日」より抜粋
Gが河原へやってきたのと、アルトが洗濯を終えて帰っていったのとがちょうど入れ違いだった。Gは、羽根とビーズを取り出した。羽根は二枚の風切り羽根で、一枚は自分自身の、もう一枚は「母さん」の翼のものだった。それらを組み合わせて首飾りを作り上げてしまうと、お弁当を広げようとして、ふと手を止めた。
「一緒にお弁当食べましょうー」
彼女はそばで素振りをしているセリフィアに声をかけた。セリフィアはコクッと肯いた。
二人で楽しく──といってもお喋りはほとんどしなかったのだが──お弁当を食べたあとで、Gは河原に寝っ転がって機嫌良く歌を歌った。セリフィアはまた素振りをしている。
しばらくして、歌が止んだ。セリフィアが振り返ると、Gは気持ちよさそうに眠っていた。
(起こしたくない……)
彼はそう思って、素振りを止めた。3メートルほど離れた場所に座って、今までのこと、これからのことに思いを馳せた。<続く>
◆第四話「心の傷」より抜粋
「これはこれは。鄙には稀なる美しいお嬢さんだ」
エリオットはGに目を向けて声をあげた。
「どうぞこちらへ。一献酌み交わしませんか」
Gはまるきり誘いを無視してヴァイオラのほうへ動きかけた。と、向こうのシーフがそれを咎めて「エリオットさまがご所望です。どうぞこちらへ」とGの腕を掴もうとした。
途端にGは殺気を放ち、ダガーを抜いた。シーフは慌てて手を引っ込めた。「おっかないお嬢さんだ」と呟いたようだった。
エリオットが立ち上がって近づいてきた。
「ギルティ、無粋なことをするな」
ギルティと呼ばれたシーフは揉み手をしながら後ろに下がった。エリオットはGの前に立ち、ヴァイオラのときと同じように名乗りをあげようとした。
「失礼しましたね、美しいお嬢さん。私、ガラナークの由緒正しき騎士団、ディフェンシブグリーンのラニーニ=ド・ラミーニの嫡子で、エリオット=ド・ラミーニと申します」
Gはそれを聞いてきっぱり言った。
「ああ、役立たずで嫌われ者の小役人ですね。母さんが言ってました」
エリオットの顔がサッと真っ青になったかと思うと、次には真っ赤に染まった。彼はぶるぶると震える手で剣の柄を握った。そしてすらりと鞘から抜きはなった。
午を過ぎてしばらく歩くうちに、森の道から抜け出し、もっと見晴らしのいい場所にさしかかった。雲もなく、穏やかな冬晴れの空のもと、一行はゆるい坂をのぼった。のぼりきったところで、やや下方向に川の流れが見えた。あの流れに沿ってもう少し行けば、渡し場があるはずだ。もう少しでフィルシムだと思うと、自然に足が速まった。
すぐ手前の川岸には黒い、大きな流木のようなものが流れ着いていた。さらに近づいたとき、一同はそれが実は人間であることに気がついた。黒い甲冑に黄金の髪、仰向けに横たわるその者は遠目に見ても年若く、少年か青年のように見えた。ヴァイオラははっと息を呑んだ。彼女の眼力は、その者の容貌が今は亡き者に似ていることまで見て取ったのだった。
刹那、前を歩いていたラクリマが「大変!」と小さく叫んで漂流者のほうへ走りだした。
「だれかラッキーを止めて!!」
ヴァイオラは鋭く叫んだ。<続く>
◆間奏「エドウィナ」より抜粋
「あ、あのぅ……助けてってどういうことなんですか?」
少し落ち着きを取り戻したアルトが、少女に尋ね返した。
少女──エドウィナはアルトにしがみついたまま、
「兄を、兄バカンを助けて下さい。偽の嫌疑を掛けられて、捕まってしまったのです」
と、瞳を涙ににじませ、訴えかけた。ラクリマはその様子に心動かされ、「まぁ…おかわいそう……」などと、自分も涙目になった。<続く>
◆第五話「転機」〜前編〜より抜粋
「今日は仕事はどうするの?」
「これから行きます。できるときにやっておきたいから」
セリフィアもそう言って立ち上がった。彼は仕事道具──要するに武具防具──を取りに、階上へあがった。
部屋の扉に手をかけたところで、ふと、何かを感じた。血の匂いだ。扉を少し開けた。中は真っ暗で何も見えない。
(おかしい……)
部屋の中には、コンティニュアルライト〔絶えない明かり〕の魔法で光を放ちつづけるランタンを置いてあったはずだ。真っ暗になるはずがなかった。
セリフィアは咄嗟に、Gからもらった魔法で光るコインを取り出し、扉の隙間から中に投げ入れた。パッと部屋の中が明るくなり、血の匂いの元が見えた。
セルレリアの死体が、セリフィアのバックパックにもたれていた。両手剣のような強い武器でばっさりと袈裟懸けに斬られており、まだ血は止まっていなかった。
「きゃああああ!! だれかぁー! ひとごろしー!!」<続く>
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