□ 寂しさ □

 

 風穴が空いたよう
 呼吸と脈とを確かめる
 何も変わりはない
 ただ、止まらないだけ
 音なく吹き抜ける感覚が
 ――ああ、また痛み
 治ったと思ったのに、また胸が痛い
 いったいこれは何だろう?


 そのひとを見て
 心臓が止まるかと思った
 動悸が激しくなり脈は不整
(何も考えられない)
 背中は軋むように痛く頭は熱っぽい
 まるで風邪の症状
 いいえ、そうではないと
 これが恋だと昨日教わったけれど
 本当に?
 キャンディのように甘くもなければ
 ボンボンのようにうっとりもしない
 身体の端々に不調が現れるだけ――嵐のように
 でも、どうしよう
 彼は笑っている、陽炎か夢を見るような風景で
 私は
 笑いたいのにうまく笑えない
 目の前のことが現実ともわからず
 自分がこの場に存在しているのかもわからない
 待って
 もう少し待ってください
 そうしたらきっとわかる
 きっと、この思いも言葉にできるから……


 寂しかった。今まで。

 

(460年7月10日)

 

 

(『ラクリマ・マテリア』より ◆ 2003年11月初出)

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