□ その時彼らは3 〜 とある宿にて 2 □

 

 夜なのだろう。外の喧噪が全く聞こえない。

 そんなこととは全く関係ない、部屋の窓を閉め切った暗い部屋。

 どこかの宿屋の2階だろうか、簡素なベッドが部屋の大部分を占めている。

 その部屋に、幾人もの冒険者風の男女が立っている。

 その中で、一人だけその部屋の主だろうか、少女と呼んだ方が良いぐらいの年齢の美女が、ベッドにちょこんと座っている。

 彼女だけ仕立ての良い普通の服を着ているので、異様さを醸し出している。

 部屋の扉がノックされ、一人の男が入ってくる。

「報告します。新設したフィルシム近郊のハイブコアは、フィルシム騎士団によって先ほど殲滅させられました」

 その報告に、部屋の中にいた冒険者風の一団の一番末席にいた者がハッと息をのんだ。

 その様子に入室してきた者は、一瞬言葉を止めたが、すぐさま報告を続けた。

「同時に『冒険者ハイブ化計画』の支部が潰されました。以後この作戦続行は困難を極めるかと思われます。なお今回の件に関して、激しく敵対行動をとっている冒険者の一行が確認されています」

 部屋の主の少女は、取り立て感情の起伏もなく、
「そう」
と、短く答えた。

 …まったく、いくら能力があるからって、なんであんな人を担がなきゃならないんだ…。

 いつもと変わらぬ対応に感情を表に出さずに、入室してきた男の方はなおも報告を続けた。

「尚、S1地点に向かった冒険者一行は…」
と言いかけて、その報告が無駄であることをさとり、話を飛ばした。

「命令通り、トラップとして解放しておきました。S1地点のハイブコアは、不慮の事故に発見されたものの、ハイブの危険察知能力により、ハイブ達が自主的に移動した模様です。我々は、引き続きS1、S2地点のコアの監視を続けます」
と報告を終わらせた。それに対する部屋の主の返答は、
「まかせた」
と、またもや短いものだった。その言葉からは、全くやる気が感じられない。

「では失礼いたします」

 報告者は、いつもと変わらぬ気のない返事に、もう慣れっこだとばかりに部屋を出ていった。

 報告者が出ていった後、中に残った冒険者のリーダー格の男は、

「『計画』の方は、これだけやれば充分だろう。後は噂が冒険者を呼んでくれる。あのギルドは、『切る』には丁度良い頃合いだ。かえって手間が省けたな」
と、部屋の主の少女のかわりに話をまとめる。

「あとは、敵対勢力か…これ以上ほっておく訳にもいかんな。行けるか?」

「はい」
と視線を向けられた盗賊は、短く返事をすると、暗闇に姿を隠して出ていった。

「あっちは今のままで大丈夫だろう。俺らはこっちに行くか」
残りの冒険者達も部屋を出ていった。

 部屋には少女だけが残された。

 彼女はゴロンとベッドに横になり、
「あぁあ、つまんないなぁ」
と、指遊びをしながら呟き、やがて眠りに落ちた。

 

 

(『第四話 エピローグ』より ◆ 2002年7月初出)

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