「さて、どうしたものかの」
深い、深い森の中。白き毛皮をまといし虎が一人、煌々と輝く満月の中でこう呟いた。
「また、相当深いところまで落ちてきてしまった様だなぁ。ショーテス、いやサーランド時代辺りといったところか…」
白き虎は、ゆっくりと立ち上がり、注意深く周囲を観察しながら、あてもなさげにゆっくりと歩き出した。
「これは貴重な体験じゃからのぅ、色々と楽しませてもらおうか…っと、そう言っていられる状況でもないのであったな。さて、元の時代に戻るには…」
歩き出したものの、すぐにその歩みを止め、ほぼ真上に来ている蒼き柔らかな光を投げかけている月を見上げながら、しばし思案を巡らせている。
「世界の理に反したモノ同士がぶつかれば、その時のエネルギーによって戻れるであろうが…場合によっては又違う時代に飛ばされるかもしれぬのぅ。しかし又、この時代にはやけに多くのモノ達と一緒に来たようじゃからなぁ。こいつらを連れて戻ってしまうのは、奴らにも迷惑じゃろうて。儂も一人で、コアに突入するのは、さすがに骨が折れるからのう」
どこを見ているのか、月の方を向いているものの、彼の視線は中空を漂っていた。その姿勢のままで、深く考え込んでしまった。
「どちらにしろ、この方法は危険が多すぎるようじゃな。もっと確実な方法を探すとしようかの。そして、あの嬢ちゃんが困ったときに、救いの手を差しのばせるようにしとかねばいかん様じゃからの」
やっと目的地が決まったのか、しっかりとした視線で前方を見据え、駆けだした。
「まずは人里、そうさのセロ村でも探してみるかの。最もあればの話であるがな…」
月はいつの時代でも、全てのモノの動向をそっと眺めるかのように、同じ明るさで輝いていた。
(『第二十話 エピローグ』より ◆ 2003年12月初出)