□ その時彼らは15 〜 とある宿屋にて 5 □

 

 とある街の、ある場所の一室。

「どうしたんです? いきなり『ちょっと出かけてくる』と言ってフラリと出ていったと思えば、またフラリと戻ってきて、しかも普段は着ないような真っ黒な服に着替えちゃって。そのワンピースも、いつもと違った雰囲気があって、とても似合っていますよ」

「……壊れちゃったの」

「壊れたって、一体何がですか?」

「だから、『喪服』なの。フフフ」

 そう言って黒いワンピースを着た少女は、今入ってきたばかりの扉から再び出ていった。

「まったく、いったい何なんだあの女は。最近ちょっとやる気を見せて、あんな化け物作り出したかと思うと、後は知らんぷり。新しいオモチャを見付けては、遊び倒して、飽きたらポイって、まるで子供じゃねえか」

「もう今更、わかっていたことだろう」

「そりゃそうですが…クダヒのコアが潰れて以来、『あっち』のメンバーに興味が移ったのか、そっちに掛かりきりじゃねえか。いよいよ、俺らも捨てられちまうのかなってな」

「アベラード家の放蕩息子が竜騎士を連れて出てきたおかげで、予定より早く潰れてしまったが、予定通りフォアジェ家から、たんまり金をせしめられたおかげで研究とやらも進んだみたいじゃないか。それに、フォアジェ家と婚姻関係を結ぼうとしたエスタートン家にもダメージを与えられた。今回はこれで充分じゃないのか」

「そのエスタートン家の件なんだが、残念ながら、目論見は失敗のようだぜ。アベラード家の放蕩息子が、エスタートン家のナルーシャと婚約をしたそうだぜ。よくもまあ、傷モノと婚約するなんて、気が違ってるとしか思えねえが、おかげでエスタートン家は、『ユートピア教の縁者』から『ハイブから街を救った英雄の縁者』になっちまいやがった」

「そうか、それは残念。全く、つくづくついている連中だな」

「だから、前に俺が言ったとおり、直接殺っちまうのが一番だって」

「それは最終手段だ。まずは、新しい連中が作っているフィルシムのコアの成長を見届けてからだな。しかし、どうも目障りな連中だ。我々が直接手を下す日は、そう遠くないと思うがな」

「う〜、早くぶっ殺してぇ」

「全く、戦士はどうしてこうすぐに殺りたがるのか、気が知れねえぜ。俺はごめんだぜ、殺るなら、裏からだな。エドウィナみたいな馬鹿なまねだけはしたくねえぜ」

 

(『第二十一話 エピローグ』より ◆ 2003年12月初出)

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