10'ソードについて、まだ見ぬ孫やその子達に私の意思を伝えたい。
この剣の破壊力は通常の大剣と比較にならないほどである。
たとえ基礎を学んだだけの者であっても、大剣の達人と同じ力を発揮できる。
私には叶わなかったが、もしこの剣を真に使いこなす事が出来たとしたら
世界有数の騎士として名をあげることも不可能ではないだろう。
だが、私はそれを望まない。
そもそもこの剣自体がどこかの物好きによって作られたものだ。
絶対数が少なすぎる。換えの効かない武器を極めたとして
その技術は戦場で活用できるとは言い難い。
使い手もほとんどいない。
私の知る範囲では私だけだ。
技術を習得し、剣技を磨くにも相当の至難が予想される。
第一、目立ちすぎる。
目立ちすぎた者のたどる道はだいたい似たようなものである。
功を焦る者達の標的にされるのが関の山だ。
とはいえ、放り出すのも危険なのである。
先にも述べたように、この剣はあまりに強力な武器なのだ。
もし邪な意志を持ってこの剣を振るう者が現れたら
どのような害悪がもたらされるかわからない。
それが愛する家族、子孫に及ばないとも限らないのだ。
この剣は我が子孫の手によって所有しつづける事を望む。
ただの鉄くずにしてしまうのもなんなので、手入れは欠かさぬようにしてほしい。
出来るだけ人の目に触れぬように保管することが望ましい。
剣を譲ってほしいという者が現れたとしても譲ってはならない。
管理者、つまり私の子孫である者が本当に金に困るような事態になった場合、
譲渡希望者の人格をよくよく見極めたうえで、納得できる人物だったときだけに
相応の金額を受け取って譲るように。
この剣は稀少であり、使い手にとっては喉から手が出るほど欲しい物なのだ。
それだけの価値はある。
この言葉が剣とともに、代々伝えられていく事を望む。
紙が痛んで我が意志が絶えることのないよう、定期的に書き写して保存してほしい。
俺が魔力を付与できればこんな手間をかけさせずに済むんだがね。
結局、本当に言いたいことはひとつなんだ。
みんなに幸せに暮らしてほしい。
それだけさ。
だからそれを妨げる可能性のあるものにはなるべく近寄ってほしくない。
残念ながら現段階ではこの剣はその可能性を秘めている。
俺が元逃亡奴隷だから。
だからこそ、君達には自由に生きてほしいんだ。
俺の所為で後々まで迷惑をかけることになって申し訳なく思っている。
強く生きてほしい。
誰の支配も受けない自由を守ってほしい。
家族を大事にしてほしい。誰よりも君を愛してくれる。
人を愛せる人物になってほしい。
誰も愛せない者は、誰にも愛されない。
俺はいつでもみんなの傍にいる。
君達が幸せになれるよう応援してる。
だから、頑張れ。
精一杯幸せになってほしい。
愛する家族がいつまでも笑顔で暮らせるよう願って
"初代" ダルフェリル・ドゥマン
128.2.8
・更新完了
結局親父は子の代、つまり俺たちに剣の技術を伝えようとはしなかった。
長剣使いの俺はともかく、両手剣使いのキャロルは少々不満だったようだ。
それも仕方ないと思う。
親父は家族を本当に愛している。
いろんなことがあったから、やっと手に入れた幸せだから、
わずかな危険でも避けたかったのだろう。
それを知っているから俺もキャロルも無理をいえない。
もし時間が過去を流し去ってくれるのなら、
俺たちの子供が大きくなったなら、もしかしたら技能を伝えるかもしれないな。
それまでに訓練に耐えられるよう立派な戦士に育てよう。
親父、期待して待っていてくれ。
ところで親父、一言だけ言わせてほしい。
「母さんに勝ってから一人前を名乗れ」って。
せめて「俺に勝ってから」って言ってほしいぞ、息子としては。
思い出すたび苦笑するしかないじゃないか。
我が一族に祝福があらんことを
"二代目" アイル・ドゥマン
・更新完了 剣及びその技能取得
騎士相当の実力を身につけたころ、突然祖父さんから呼び出された。
いつも飾ってあった巨大な剣の扱い方。それをお前に伝えるって。
父さんは行って来いとしか言わなかった。
ここ数年、祖父さんは年の所為かめっきり元気がなくなっていた。
それがまるで嘘であったかのように厳しい訓練が行われた。
俺の身体が悲鳴をあげるくらいだ。
今まで一度も見たことのなかった表情。
どれだけ真剣であったか、いやと言うほどわかった。
2回の訓練が終了し、それなりに剣を扱えるようになったころ
祖父さんは息を引き取った。
安らかな寝顔。
祖父さんはしあわせだったとおもう。
最悪のスタートだったけど、自分の手で幸せを勝ち取ったんだ。
祖母さんと出会えた事が祖父さんの人生におけるキーポイントだったんだろうね。
遺品の整理をしていて、祖父さんの日記を見つけた。
祖父さんの人生がまとめられている。
これを読んで、ようやく祖父さんが父さんや叔母さんにこの剣を伝えなかったのか理解できた。
祖父さんの孫として生まれたこと、ちょっと誇りに思う。
これも一緒に伝えていく事にする。
是非一緒に読んでほしい。後半はなかなか笑えるぞ。
祖父さんがいつまでも家族を守ってくれますように
"三代目" レクシアル・ドゥマン
・注意書き、及び日記更新完了、剣及びその技能習得済み
ダル祖父ちゃんには会ったことがない。
けど、やさしい人だったんだろうなって思う。
日記には家族に対する想いがいっぱい書かれていた。
ジル祖母ちゃんのこと書いてあるのが一番多かったけど。
父さんから譲り受けたとき、いっていたことの意味がよくわかる。
私もジル祖母ちゃんみたいにずっと愛してくれる人と結婚したいな。
こんなごっつい剣背負ってちゃなかなか見つからないかな?
あっ、持って闊歩しちゃいけないんだったね。
それならなんとか見つかるかなぁ。
それにしても二人とも本当にラブラブだったんだね。
読んでるこっちが恥ずかしくなっちゃった。
後半ほとんどのろけ話なんだもん。
子供が生まれたらちゃんと伝えていくから安心してね。ダル爺ちゃん。
いい人が見つかって幸せな家庭が築けますように
"四代目" シャルフィーナ・ドゥマン
・注意書き、及び日記更新完了
というわけでその後、母さんは無事結婚して俺を産んでくれました。
よかったよかった。
伝承していくにも子孫がいないとできないもんね。
とはいっても俺は父ちゃんに鍛えられたから長剣使いなんだけどさ。
母さんはさっさと結婚して孫を連れてこいって、ずっと言ってた。
この度、俺も結婚して子供が生まれたんだけど…母さんの娘を見る目が怖い。
ダル爺様、お願いですので娘を見守ってあげてください。
絶対スパルタ教育するつもりです、うちの婆さん。
俺も知っとけっていう事でこの注意書きと日記を渡された。
写本作るのも子孫の役目っていうことだね。
褒めるところもつっこむところもみんな先に言われちゃってるしな。
…そういえばうちの家系、女性のほうが強いのはダル爺様の頃からだったのかなぁ。
曾祖父さんのツッコミは正鵠を射るというか。
娘も将来とっても強くなるのかなぁ…。
父さん今から心配だよ。
強い女性が好きなのも家系なんですかね…。
まあ俺もそうなんだけどね。
娘が奥さんに似たらやっぱり強くなりそうだなぁ。
なんにしても家族みんなが幸せならそれがいちばんだね
"五代目" ジョルジュフェル・ドゥマン
・注意書き、日記更新完了 剣とその技能習得済み
父さんひどいよ〜。
なにもそんな事代々伝えて残すものに書かなくてもいいじゃないのぉ。
…まあ父さんの危惧があたったのかどうなのかはともかく、
お祖母ちゃんにしっかり鍛えられました。
ダルダル爺ちゃん、剣は私が守っていくからね。
持ち歩くのは勘弁してほしいけどね。
…ところで私もダルダル爺ちゃんって呼んでいいのかなぁ?
じるじる祖母ちゃん専用だったみたいだし…いい?許してくれる?
ところでこのドゥマンってファミリーネーム、ダルダル爺ちゃんがつけたんだね。
日記読んで知ったんだ。
じるじる祖母ちゃんやお腹にいた子供(私にとってご先祖様だけどね)に
気に入ってもらえるように一生懸命考えたんだね。
私も気に入ってる。
「好きな人と迎えられる明日」っていいよね。
私達もその想い、受け継いでいくからね。
そんなわけでお婿をもらう事にしました。
この名前、変えたくなかったんだもん。お祖母ちゃんもそうだったのかなぁ?
剣と名前に込められた想いがずっと伝わっていきますように
"六代目" アルウィン・ドゥマン
・注意書き、日記更新 剣の管理をひきうける
ママは私が13歳の時に病気で亡くなりました。
まだ私、剣の修行する前で…ご先祖様には申し訳ないんですが
この剣を扱う技術はここで絶えました。
ごめんなさい。
でも剣そのものと、こめられた想いはずっとずっと伝えていくつもりです。
ご先祖様の加護がずっと私達を守ってくださいますよう、私達も頑張っていくつもりです。
私、今は両手剣を修行しているところです。
パパはママの分まで強くなりなさいって言ってくれます。
この剣はパパじゃなくて私がもつべきものだって。
日記も注意書きも、パパは読んだことないみたいです。
剣を管理する者ただ一人が読むものだって。
そしてそこに書かれていることを伝えるのが君の役目だって。
全部読み終わって、写本作って。
ご先祖様が何を伝えたかったのか、今なんとなくですけどわかったような気がします。
でも私まだまだ未熟だから…。
この剣の管理者としてご先祖様にも胸を張って言えるよう、修行に励みたいと思います。
ママがご先祖様と一緒に安らかに眠れますように
"七代目" フィルシェアル・ドゥマン
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・注意書き、日記更新。 剣の管理役をゆずりうける
俺でもう16代目になる。ご先祖様の言葉を俺が知ることができるのも
代々こうして記録を更新していったからだ。
みんな初代のご先祖様が好きだったんだね。俺もそうだけど。
やっぱり子孫としてはご先祖様を大事にしないといけないからね。
きっちり役目は果たしていくよ。
剣も300年以上も前のもの、しかも大分前から使われていないのに驚くほど状態がいい。
ちゃんと手入れされ続けてきたんだなぁと実感する。
剣に触れていると、この剣を初代のご先祖様も、二代目のご先祖様も
この剣とともに生きてきたんだなぁという感慨が湧き上がってくる。
俺にはこの剣を扱う事は出来ないけれど、ずっと大事にしていきたいと思っている。
剣にはご先祖様たちの願いと想いが溢れんばかりにつまっているからね。
しかしこの数百年、ご先祖様の眼に適う譲渡希望者がいなかったっていうのも
情けないというかなんというか。
まあこの分だとしばらくは我が家で管理していく事になりそうだね。
そのほうが俺としてもいいんだけどさ。
せっかくここまで続いたんだから、俺の子供にも伝えてやりたいし。
まだちっちゃいけれど、いつかご先祖様達にも負けないような
立派な剣士になるようしっかり育てるよ。
それまでは俺が頑張らないとね。
家族の絆がいつまでも伝えられることを願って
"十六代目" ハルクウォール・ドゥマン
(『あの日の想い』より ◆ 年月初出)