段落の重要性

■段落とは何か?

 段落とは、文章のまとまりです。
 改行から次の改行までを、一段落と言います。
 改行とは、そのまま「行を改める」ことです。改行して段落を分けることで、文章を読みやすくします。実際に、改行がない文章がどうであるか、読んで確かめてみましょう。

例文1.
 日本の着物にはポケットがない。そのため、和装のひとびと、とりわけ男性は、小物を持ち歩くのに巾着や印籠、煙草入れなどの提げ物・袋物を利用した。これらの提げ物が落ちてしまわないよう、腰帯に挟んだ紐の先に留め具が付けられた。これが根付である。根付の利用は室町時代末期まで遡る。武士たちが印籠や火打ち袋の携帯に使ったのが始まりとされる。当時の印籠が簡素なものであったことから、根付もまた、動物の牙や角、貝殻、木の実などの自然素材に紐を通す穴を穿っただけの、簡単なものだったと推察できる。根付が工芸品として注目され、体裁を整えてくるのは、17世紀後半からである。このころになると、根付を手にした人物図が描かれたり、資料にも登場し始める。しかし、生活風景はもとより風俗・故事・風物などすべてに題材を求め、さまざまな素材や技法を駆使して、愛玩にも堪える根付が作られるのは18世紀に入ってからだ。流行の最盛期は江戸時代後半で、ひところは専門の根付師の他に、絵師、蒔絵師、欄干師、挽物師、からくり師、面打、鋳物師など、さまざまな分野の職人が腕を振るった。当時の根付は、小品ながら、材料を吟味し機知に富んだ意匠と高水準の技巧をこらして作られた優れた工芸品だ。明治以後、洋装の普及とともに提げ物の需要が低下し、根付も衰退の一途をたどった。その一方で、意匠のたくみさ面白さが西洋人に注目され、佳品の多くが海外に流れた。根付の製作が絶滅してしまわなかったのは、一部の数寄者や海外の収集家の根強い支持があったからに他ならない。(約650字)

 一応、練って作った文章なので、ものすごく読みにくいということはないと思います。ただ、読んでいる間、息継ぎができないように感じないでしょうか。これがもっと長い文章になると、読む側の負担がさらに大きくなります。
 では、改行を入れ込むとどうなるでしょうか? 下の文章を読んで較べてみてください。

例文2.
 日本の着物にはポケットがない。そのため、和装のひとびと、とりわけ男性は、小物を持ち歩くのに巾着や印籠、煙草入れなどの提げ物・袋物を利用した。これらの提げ物が落ちてしまわないよう、腰帯に挟んだ紐の先に留め具が付けられた。これが根付である。
 根付の利用は室町時代末期まで遡る。武士たちが印籠や火打ち袋の携帯に使ったのが始まりとされる。当時の印籠が簡素なものであったことから、根付もまた、動物の牙や角、貝殻、木の実などの自然素材に紐を通す穴を穿っただけの、簡単なものだったと推察できる。
 根付が工芸品として注目され、体裁を整えてくるのは、17世紀後半からである。このころになると、根付を手にした人物図が描かれたり、資料にも登場し始める。しかし、生活風景はもとより風俗・故事・風物などすべてに題材を求め、さまざまな素材や技法を駆使して、愛玩にも堪える根付が作られるのは18世紀に入ってからだ。
 流行の最盛期は江戸時代後半で、ひところは専門の根付師の他に、絵師、蒔絵師、欄干師、挽物師、からくり師、面打、鋳物師など、さまざまな分野の職人が腕を振るった。当時の根付は、小品ながら、材料を吟味し機知に富んだ意匠と高水準の技巧をこらして作られた優れた工芸品だ。
 明治以後、洋装の普及とともに提げ物の需要が低下し、根付も衰退の一途をたどった。その一方で、意匠のたくみさ面白さが西洋人に注目され、佳品の多くが海外に流れた。根付の製作が絶滅してしまわなかったのは、一部の数寄者や海外の収集家の根強い支持があったからに他ならない。

 明らかに、例文2.の方が読みやすいはずです。この文章全体が、どういう構成になっているかも、読んでいてわかりやすいと思います。

 このように、全く同じ文章でも、幾つかのまとまりに分けてある方が読みやすく、理解されやすいのです。論文のように、自分の主張でだれかを「説得」しなければならない性格のものにおいては、相手に「理解されやすい」ということは非常に大切なことです。
 したがって、全く改行せずにずらずらと書き連ねるのはやめましょう。必ず適度に改行し、段落を分けてください。

■論文における段落の意義

 論文における「段落」には、単なる「読みやすさ」以上の重要な役割があります。それは「構成」です。

 段落は、文章のあるまとまりの単位です。文が集まって段落となり、段落が集まって節に、節が集まって章に、というように、文章全体を構成する単位であり、「まとまり」という意味では最も小さな、基本的な単位です。
 論文では、この最小単位のまとまりにも、ある役割が与えられます。それは「話題」としてのまとまりです。

 先ほどの例文2.をもう一度見てもらいましょう。これは論文ではなくて根付に関する説明文ですが、段落ごとに話題がまとまっているはずです。全部で5段落あり、それぞれの話題は以下のようになっています。

  • 第1段落:根付とは何か
  • 第2段落:根付の歴史1.起源
  • 第3段落:根付の歴史2.展開
  • 第4段落:根付の歴史3.最盛期
  • 第5段落:明治以後の根付

 段落が分かれていると読みやすいのは、話題ごとのまとまりが明確でわかりやすいからでもあるのです。逆に、話題ごとのまとまりを無視した段落分けは、文章の明確さや説得力を損ないます。例を見てみましょう

例文3.
 日本の着物にはポケットがない。そのため、和装のひとびと、とりわけ男性は、小物を持ち歩くのに巾着や印籠、煙草入れなどの提げ物・袋物を利用した。これらの提げ物が落ちてしまわないよう、腰帯に挟んだ紐の先に留め具が付けられた。これが根付である。根付の利用は室町時代末期まで遡る。
 武士たちが印籠や火打ち袋の携帯に使ったのが始まりとされる。当時の印籠が簡素なものであったことから、根付もまた、動物の牙や角、貝殻、木の実などの自然素材に紐を通す穴を穿っただけの、簡単なものだったと推察できる。根付が工芸品として注目され、体裁を整えてくるのは、17世紀後半からである。
 このころになると、根付を手にした人物図が描かれたり、資料にも登場し始める。しかし、生活風景はもとより風俗・故事・風物などすべてに題材を求め、さまざまな素材や技法を駆使して、愛玩にも堪える根付が作られるのは18世紀に入ってからだ。流行の最盛期は江戸時代後半で、ひところは専門の根付師の他に、絵師、蒔絵師、欄干師、挽物師、からくり師、面打、鋳物師など、さまざまな分野の職人が腕を振るった。
 当時の根付は、小品ながら、材料を吟味し機知に富んだ意匠と高水準の技巧をこらして作られた優れた工芸品だ。明治以後、洋装の普及とともに提げ物の需要が低下し、根付も衰退の一途をたどった。その一方で、意匠のたくみさ面白さが西洋人に注目され、佳品の多くが海外に流れた。
 根付の製作が絶滅してしまわなかったのは、一部の数寄者や海外の収集家の根強い支持があったからに他ならない。

 読んでみてどうでしたか? 例文2.の方がわかりやすくありませんでしたか? それは、例文3.の段落構成が、話題ごとにまとまっていないからです。読んでわからない文章ではありません。ですが、段落構成が悪くなってしまったため、何を言わんとしているのかが掴みにくくなっているのです。
 とりわけ、第2・4・5段落が変です。
 例文2.の第2段落では、「根付は江戸時代のもの」という一般的な理解をふまえ、「実は江戸時代よりもっと前からあったのだ」という点に重きを置いていました。それが段落の分け方とともに、重点が「武士が携帯用に使ったのが始まり」の方に変わってしまいました。しかもこれでは、ここで言われる「武士」が「室町時代末期の武士」であるということが、すんなり頭に入ってきません。
 第4段落は、最初の文と、そのあとの2つの文章とがばらばらでうまくつながらず、段落としてまとまりがありません。もちろん、無理すれば「高水準の意匠と技巧」から「西洋人に注目された」を関係づけることは可能です。が、今度は、2つの間に挟まった「明治から廃れた」の一文が浮いてしまいます。
 第5段落は、突発的で何やらわかりません。実はこの一文は、例文1.だろうが例文2.だろうが例文3.だろうが、どれにおいても「まとめの文章」にあたります。例文3.では、それが突然現れ、前後の脈絡が掴めないまま、「なんでこれで終わっちゃうの?」という印象を与えています。単に一文で一段落になっているからではありません。これは第4段落と関係しています。
 例文2.では「明治から廃れた→だが西洋人に評価された→絶滅しなかったのはそのおかげ」という構造で、第5段落を構成しています。ですが、例文3.では「江戸の根付は芸術品→明治から廃れた→だが西洋人に評価され流出した」で一段落になっており、このせいで第4段落はあたかも「芸術的根付の海外流出」がテーマであるかのように読めます。そのため、「絶滅しなかったのは」とうまくつながらなくなっているのです。

 このように、段落を分けること、そしてどこでどう分けるかということは、小論文の説得力に大きく影響します。
 ちなみに、この例文で私が伝えたかったのは、1.根付とは留め具である、2.江戸時代よりもっと前からあった、3.体裁が整ってきたのは江戸時代、4.さらに発展し素晴らしい工芸品に、5.工芸品としての完成度から絶滅を免れた、ということでした。それをよりわかりやすく伝えるには、例文2.のような段落分けが適切なのだということは、おわかりいただけただろうと思います。

■段落のめやす

 ここまで読んできて、「そんな最初からうまく段落分けできないし、どうやって分けたらいいかわからない」と思うかもしれません。確かに、最初はうまく行かないでしょう。ですが、何度か練習するうちにコツが掴めてくると思います。
 ではコツが掴めるまではどうしたらいいのか? がむしゃらに分けるのが苦痛だ、という方のために、量的なめやすを書いておきます。

 小論文の字数はだいたい600字〜1200字程度です。これを考えるに、小論文一本につき、段落の数は3〜5段落が標準であると思っていいでしょう。最大字数に応じて増やしたり減らしたりしてください。ただし、3段落はどうしても必要です。なぜなら、小なりとはいえ論文を書く以上、次の3つのパートが必要になるからです。

  1. 論旨(何をどう論ずるかの宣言)
  2. 例証(詳しい説明)
  3. まとめ

 構成については、また別な節で詳しく取り上げる予定ですが、とりあえずこの3つは必要であり、したがってどの小論文でも段落を3つ以上は作らなければならないことは覚えておくといいでしょう。

 各段落は100字〜300字程度におさめるとよいでしょう。標準は一段落につき200字です。「どうしても100字を超えなければならない」だとか、「決して300字を超えてはならない」ということはありません。必要に応じて加減してください。
 しかし、上手な段落構成をすれば、たいがいは100〜300程度で収まるはずですので、大幅にその範囲を逸脱したときには、念のため「本当にこの段落はこれだけで十分なのか?」「本当にこんなに長く書く必要があるのか?」ということを振り返ってみてください。案外、それで過不足がわかるかもしれません。

 これらは量的なめやすに過ぎません。
 重要なのはとにかく、「段落を作ろう」という意識をもって臨むことです。そうするうちに「段落意識」---自分の伝えたい内容について、流れに沿って一つずつまとまりをつけて表現しようとする意識---が身につき、段落の作り方も必ず上達するでしょう。

■段落と速読法

 段落構成は非常に重要なので、もう一度別な節で取り上げる予定です。
 しかし、「段落=話題」であり「段落構成=論の展開の構成」であることを端的に表す例として、ここで「速読法」について触れておきましょう。

 論文類における段落の冒頭の一文を、「トピックセンテンス」といいます。その名の通り、「この段落におけるトピック(話題)は何であるか」を示す文章です。優れた論文では、各段落の冒頭にその段落の眼目が何であるかを示す文章をおき、それに続いて例証などが展開されます。つまり、その段落における一番重要な文章は、段落のトップに書かれているわけです。

 もっともポピュラーな「速読法」は、一番最初の段落(要旨、梗概など)全文と、その間の各段落の「トピックセンテンス」たち、そして最後の段落(結論)全文を読むというものです。先ほども書いたように、「段落中もっとも重要なことは冒頭の一文に示されている」はずですから、それだけつないで読んでいけば、骨子が掴めるというわけです。
 もちろん、小説やエッセイには使えませんが、「速読法」が必要とされる対象は、主に論説の類ですから問題ないはずです。問題があるとすれば、そうしたきれいな構成の論文にできるかどうか、書き手の側にあるでしょう。
 日本人はこの「トピックセンテンス」や、段落構成そのものが苦手な人が多いため、この「速読法」は必ずしも有効ではないかもしれません(段落構成の不得手は、日本の初等・中等教育で「表現法」を学ばせないことと深く関係しています)。ですが、欧米の人々はきちんと「トピックセンテンス」を作り、段落構成も論証に適した展開になっていることが多いので、こうした人々の著作(翻訳を含め)を読むときには、このオーソドックスな「速読法」は大いに役立つでしょう。

 ためしに、英語の試験で出る、長文読解の文章のトピックセンテンスを拾っていってご覧なさい。細かいところはわからなくても、だいたいの流れが掴めるはずです。もちろん、その長文がどんなものであるかによりますが、物語でなく論説の類であれば、試してみる価値はあると思いますよ。
 他人のものを読んで「こういう段落になっているんだな」と考えるのも、有効な手段です。いいお手本・悪いお手本をいろいろ読んで参考にしましょう。

※ちなみに、今回出した例文は「論文」ではないのでトピックセンテンス式になっていません。悪しからずご了承ください。

2002.7.28

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