古代のアンデス文明およびマヤ文明を研究する同好会

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2005年4月の講師
関雄二国立民族学博物館助教授

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2005年4月の定例講座

モチェ社会と形成期社会 ―権力操作からみた比較―
講師:関雄二国立民族学博物館助教授

2005年4月16日(土)
東京外国語大学本郷サテライトにて


 アンデス古代社会における権力操作の様相を3つの権力ソース「経済、軍事、イデオロギー」を使用して比較検討した講義でした。

 余剰生産物を権力者や支配集団に割り当てる経済的局面を、通常ポリティカル・エコノミーといい、食物や織物など日常生活に不可欠な「主生産物財政」と持ち運びが容易な威信財などを含む「奢侈品財政」とがこれに含まれます。

 カハマルカ盆地の形成期社会では、ポリティカル・エコノミーが未発達で、クントゥル・ワシ遺跡では、とくに奢侈品財政の発達が、金属製品、遠距離交易品などの存在からうかがわれます。戦争の軍事的証拠は希薄な一方で、巨大な祭祀建造物、建築の更新にともなう儀礼の活発化、複雑化でイデオロギーのコントロールは進行しました。しかし、こうした権力の様相は、形成期末期に大きく変貌を遂げます。主生産物財政では、トウモロコシ栽培やラクダ科動物飼育が導入され、また軍事面でも、遺跡の立地などから社会的緊張関係が読みとれます。また従来の祭祀建造物から図像が消失し、代わってトウモロコシのチチャ酒による新しい儀式が導入された可能性があります。結局、形成期末のリーダーは、こうした社会変動に対応し、経済、軍事、イデオロギーの相互関係を再構築することができなかったようです。

 モチェ社会は、主生産物財政、奢侈品財政がともに発達しました。大潅漑施設、グアノ肥料による集約農業で高い余剰産物を生んだのです。奢侈品財政では生産、流通、消費をコントロールし、軍事面では土器や神殿壁画の接近戦、捕虜の図像、人骨の殺傷痕、月の神殿の人身供儀などから、戦闘はエリート同士の儀礼戦であったと推測されます。戦争恐怖を可視化して、軍事的コントロールを行ったようです。アドベの刻印が示す労働力の組織化は、祭祀建造物建設を拡大させ、チチャ酒の儀礼的利用は軍事的緊張関係を緩和しました。主生産物財政の発展と社会的緊張を、イデオロギーのシステムに絡ませてコントロールし、視覚的にも発達させた社会はモチェ以前には存在しなかったのです。



次回5月21日(土)は小野幹雄 東京都立大学名誉教授による
アンデスの植物


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