2006年4月の定例講座
世界遺産チャビン・デ・ワンタル再考
講師:関雄二 国立民族学博物館教授
2006年4月15日(土)
東京外国語大学本郷サテライトにて
今回はアメリカのスタンフォード大学チャビン・プロジェクトによるチャビン・デ・ワンタルの新しい解釈についての講義でした。
チャビン・デ・ワンタルは、アンデス山脈の東側に降りた斜面にある遺跡です。ペルー考古学の父といわれるフーリオ・テーヨによって、かつてはアンデス文明の起源とされました。チャビンの年代は、リチャード・バーガーにより古くてもB.C.800年とされ、海岸の方が古いということが判っています。
スタンフォード大学のジョン・リックは、チャビン・デ・ワンタルの図面作成から始めて次々と新しい発見をしました。
まず第1に、従来の図面の誤りがわかり、正確な平面図を作成、
第2に、チャビン・デ・ワンタルの建築更新過程の新しいモデルを提唱、
第3に、レーザーによる測量で正確な回廊の分布図を作成、
第4に、建築更新過程の新モデルから、B.C.1200年からB.C.500年をチャビンの編年とすることを提案、
そして、第5番目は4つの発見を元にした新しい解釈です。
リックはバーガーの巡礼地説とは違う見方で、宗教における権力の操作に注目し、そこにリーダーの戦略があるとします。チャビンのリーダーは、各地のリーダーに受け入れやすくするために各地の要素を取り込みます。信者達がチャビンに巡礼に来る度に労働を行うことによって、拡張していく、これがチャビン・デ・ワンタルの姿であるとします。つまり、チャビンのリーダーは既にある観念や宗教の踏襲を装うことで、内には統合的に見せながら個人的目的を拡大させたのです。
このリックの解釈に対して関先生は、あまりにもチャビン中心的であり、宗教面の投資を重視しすぎて経済の問題を説明していないと指摘します。ただ、リーダーと庶民、リーダー間のダイナミズムをこのように描くことは非常に興味のある解釈であり、この新しい解釈でチャビン・デ・ワンタルも今までと違った見方ができるということなので、今後この解釈をさらに発展させて、どういう展開があるのか期待できそうです。
次回5月20日(土)は芝田幸一郎先生による
ネペーニャ谷の形成期とチャビン問題:セロブランコとワカ・パルティーダ神殿の発掘から
|