2006年6月の定例講座
ペルー北部の形成期:山地と海岸のインタラクション
― サーニャ谷一般調査を通じての考察
講師:井口欣也 埼玉大学教養学部助教授
2006年6月17日(土)
東京外国語大学本郷サテライトにて
先生はアンデスにおける文明の形成過程の解明を研究していて、1988年から現在に至るまでペルー北部山地の神殿遺跡(クントゥル・ワシ遺跡)調査プロジェクトのメンバーとして研究をしてきました。アンデス文明形成社会、経済の発展において祭祀センター(神殿)としての役割とその変化、また調査によって得られた膨大な出土資料(人骨、獣骨、金製品、土器など)を用いた実証的研究を行ってきました。
この講義では、1995年10月に Elmer Atalaya氏 とともに、ペルー北部サーニャ河流域を中心とする遺跡の踏査を実施したことにより判明した内容についてです。
サーニャ川は北にランバイェケ川、南にヘケテペケ川に隣接する、地理的にみても何らかの調査結果の期待できる地域です。サーニャ谷およびサーニャ川下流から中流域にはプルレン、カヤルティ、セロ・コルバッチョ、そして上流域にはポロポロ遺跡という岩絵で有名な遺跡があり、調査したとのことです。
今回の一般調査では35の遺跡を踏査、そのうち 8遺跡で表面に形成期の土器を確認しており、形成期における全体的な把握はこれからの課題だそうです。
この中から特に Zona 9 と名づけた遺跡が見込みのある場所だといいます。それは、遺跡表面を観察しただけでも、クントゥル・ワシ遺跡のイドロ期、クントゥル・ワシ期、コパ期、ソテーラ期にわたる4期すべての特徴的な土器の破片が見つかったためで、クントゥル・ワシ近辺でもこのすべての時期の土器が見つかる遺跡が無かったことによります。
このほかにも、博物館や個人コレクションとして知られている形成期の金製品には、クントゥル・ワシ遺跡で発掘された金製品との形状的、図像的類似性が見られるものがあり、アンデス形成期の金製品の系譜を考察する上で興味深いということです。また最後には、クントゥル・ワシ調査の成果と浮かび上がってきた新たな課題が、現在日本の研究者によって行われている発掘調査の意義とどのように関連するのかという説明がありました。
次回、先生に講義頂ける時には、また新しい発見や調査成果についてのお話しが聞けると期待できる内容でした。
次回10月21日(土)は渡部森哉 南山大学専任講師による
インカの足跡 ― ペルー北高地の事例から
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