2006年10月の定例講座
インカの足跡 〜ペルー北部高地の事例より〜
講師:渡部森哉 南山大学専任講師
2006年10月21日(土)
東京外国語大学本郷サテライトにて
日本のアンデス文明研究者には形成期の専門家が多いのですが、先生はインカ期を中心に研究しておられ、特にスペインの征服後に残された記録を基に再構成された、従来からのインカに関する常識を、考古学の立場から再検討されています。この講座では、先ず、インカにおける「人と場の関係」、「土地、富、社会の概念」、「空間認識」等のお話があり、次に植民地時代の記録の内容を検証するため、先生が実施されたペルーの北高地遺跡の調査結果についてお話がありました。
「人と場の関係」については、クスコは単なる地名ではなく、16世紀、17世紀の文献によればインカ王の呼び名にも使われ、インカの地方行政センターがもう一つのクスコと呼ばれていた。「土地、富、社会の概念」については、アンデスでは土地の絶対的所有権はなく、土地の使用権、用益権のみがあり、労働力を投下して、収穫された作物や家畜、建物のみを所有する事が出来ました。「空間認識」については、点と点の位置関係のみであり、面的な空間認識ではありませんでした。
「植民地時代の記録の内容を検証」については、16世紀の巡察記録によると、インカ時代にカハマルカには7つの行政単位「クイスマン王国」があり、インカは既存の政治組織を再利用し、そのまま間接統治したと考えられていました。この説を考古学の立場から検証するためにアンデス西側のタンタリカ遺跡と東斜面のサンタ・デリア遺跡を発掘しましたが、この地方にはインカの征服前に文化的統一はなく、少なくとも二つの異なった文化要素があって、インカによって以前のカハマルカの人間集団が分断統合され、新たな行政単位が創設された事が分かりました。
次回11月18日(土)は篠田謙一先生(国立科学博物館人類研究部)による
遺伝学から見た古代アンデス人
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