古代のアンデス文明およびマヤ文明を研究する同好会

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アンデス文明研究会特別公開講座リポート
9月のアンデス文明研究会・特別公開講座が下記の要領で開催されました。


神格化された王権の起源を読む
講師:大越 翼 上智大学外国語学部教授

2007年9月29日(土)
東京外国語大学本郷サテライトにて


 今年の2月の講座で、「後古典期マヤ北部低地における王権をめぐって」と題し、大越先生から王権の基盤を歴史学的に、宗教や経済面から検証したお話しがありましたが、今回の講座はその続編で、16世紀後半に、征服スペイン人が採録した先住民王族の証言や、先住民王族がアルファベット化されたマヤ語で書いた文書や家系図の中で主張されている、王権の真実性、史料の背後にあるマヤ人の論理・主張を、どう明らかにするかと言う興味深いお話しがありました。植民地時代には、マヤの王族・貴族も一括して「インディオ」扱いになってしまい、王族達は、自分達が一般のマヤ人と違って高貴な身分であったことをスペインの採録者に語り、また自らの文書によっても、自分の王家は簒奪者ではない正しい出自で、円満に人民を統治し慕われたのだと、その王権の正当性を強く主張しました。

 今回使用した文書は、フアン・ピオ・ペレス・ベルモンの編纂した「ペレス写本」、先住民王族が書いた「カルキニ文書」、 ディエゴ・デ・ランダ神父の「ユカタン事物記」、フェリペ二世の指示によって各地のエンコメンデーロが作成し、そのなかに先住民王族から採録した証言が含まれている「地理報告書」等などです。これらの文書は、かつては歴史的真実を語るものとして、歴史学者や考古学者に解釈されてきましたが、実際には、自分達の王家の正当性を強く主張するための神話的な誇張があり、それに含まれる背景を読み解くに当たっては、彼等の宇宙観とその聖なる構成数や、時間の円環的な観念(例えば256年周期)に合致するように故意に構築される歴史、王位に就くために必要な「通過儀礼」にまつわる表現等、基本的な知識が必要です。

 例えば、マヤ貴族のガスパール・アントニオ・チが書いた「ペレス写本」に見るシウ家に関する言説では、メキシコら来た同家の先祖が「スユアの西」に到着して、長い年月苦労して、ウシュマルの王になったと書かれていますが、ここで言う「スユアの西」とは実在の場所や方角を指すものというよりも、象徴的に西にあると考えられていた冥界への入り口を指し、一度死んで冥界での苦難を経験してこの世に現れた、外来系の王として必要な「通過儀礼」を体験済みの、簒奪ではない正当な出自の王であることを暗に主張しています。またスペイン人が採録したガスパール・アントニオ・チの別の言説では、マヤパンの王であるトゥトゥル・シウが、ユカタン半島で秩序を持って人民を導き、暦や文字、儀礼を教えたと讃えていて、世界樹を模したシウ家の系統樹図でも、これらの内容が細かく書かれています。この様に、事実と思われてきた植民地時代の王族の出自譚は、その裏に彼等の恣意的な主張があり、更に豊かな情報を提供してくれます。