2008年1月の定例講座
マヤの王権について
講師:横山玲子 東海大学文学部アメリカ文明学科教授
2008年1月12日(土)
東京外国語大学本郷サテライトにて
横山先生は、特にマヤ文明に興味を持たれ、文明学(人間は過去にどのようなことをしてきたのか、これから何をすべきかに着目する学問で、東海大学にしかないそうです)のお立場からマヤの神話や図像について研究をされています。文明は人類が作り出すもので、民族個別の文明(マヤ、アステカ等)には共通の概念があり、人間の考え方や哲学が大事だとする考え方です。
始めのお話しはマヤの世界観に関するもので、『ポポル・ヴフ』に書かれた「シバルバー世界」は、研究者によって死後の世界、地獄等と解釈されてきましたが、恐らく当時のマヤの人達の世界観には自分達が住む世界の他に、シバルバー世界や水に関する世界等、色々な世界があって、現代の我々が、自分達が実証不可能で、唯一残されている死後の世界がシバルバー世界であると勝手に決めつけているのではないだろうかと言う事でした。
次はトカスカラ州にあるカカシュトラ遺跡の建造物A、Bの壁画についてですが、この壁画も研究者によって鷲の戦士(マヤ民族)とジャガーの戦士(中央高原の民族)との争いで、鷲の戦士が戦いに負けたと解釈をされていますが、この壁画を良く見るとマヤの戦士とジャガーの戦士の脇にそれぞれ13、9と言う数字が描かれており、これは『チラム・バラムの書』の天地創造(再創造)編で書かれている「地下の9神」と「天の13神」が戦って世界が崩壊し、バカブ神が再創造した神話を表しているのではないかと解釈されます。つまり両者とも、メソアメリカ共通の神話が描かれているのです。
最後はマヤの石碑に良く刻まれる王権の象徴「カウィル神」についてですが、パカル王の石棺の蓋や息子のカン・バラムの王位継承図を見ると、「カウィル神」は死んで行く王から離れて描かれ、新王の身体にはしっかり巻き付いて描かれています。「チラム・バラム書」に依れば、人間は神々を養うために作られたそうです。同様に、サグアンの記録に依れば、アステカの王位継承の儀礼の中で、王はアステカの「テスカトリポカ神」の「背もたれ」になることを誓うそうで、メソアメリカ歴史の中の王権の概念は、命ある王とは別にそのものが永遠に生きている生き物と考えられます。
次回2008年2月9日(土)は杉山 三郎 愛知県立大学教授による
テオテワカンの都市計画と太陽のピラミッド:具体化された宗教観と政治構造
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