古代のアンデス文明およびマヤ文明を研究する同好会

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2008年5月の定例講座

骨と図解 ―動物から読み解く古代アンデス―
講師:鵜澤和宏 東亜大学人間科学部准教授

2008年5月17日(土)
東京外国語大学本郷サテライトにて


 今回、動物考古学を専門とする鵜澤和宏氏(東亜大学)をむかえ、アンデス考古学ではなじみの薄い動物考古学の研究領域について、その目的や方法、ペルー北高地における最近の研究成果についてお話を聞かせていただきました。

 動物考古学では採取された骨や歯から年齢、栄養状態などについて知ることができます。また、形成期アンデスの動物利用と神殿の機能などから、動物考古学の視点にたって、ラクダ科牧畜の拡散と生業変化、動物の象徴的機能とその系譜をたどることができます。本講座では、ラクダ科家畜の起源と拡散、動物の象徴的利用の2点について、ペルー北高地における研究成果を紹介されました。

 北アメリカ大陸に起源するラクダ科動物の一群が、陸続きになっていたパナマ地峡を通り、300万年前頃に南アメリカに拡散しました。これがアンデスに生息するコブナシラクダの祖先種です。現在のグァナコ、ビクーニャに分岐した後、さらに人の手によってリャマとアルパカという家畜が作り出されました。ペルー中部のフニン高原に位置するテラルマチャイ洞穴から出土した数十万点に及ぶラクダ科の骨を分析したWheelerは、紀元前4000年頃にラクダ科動物が狩猟対象から飼育動物に変化したとの見解を示し、これがラクダ科家畜の起源として定説となっています。

 しかしながら、家畜化されたリャマとアルパカが、その後どのような経過をたどってアンデスの広い範囲に伝播していったかについては不明で、研究が進んでいませんでした。ところが、東京大学アンデス調査団が長年にわたって調査を続けてきたペルー北部高地は、もともとラクダ科野生種の分布が希薄な地域で、とりわけ山地と海岸の中間域に立地するクントゥル・ワシ遺跡周辺にはグァナコ、ビクーニャとも生息していませんでした。クントゥル・ワシ遺跡での4シーズンにわたる動物骨の分析によって、形成期後期になってラクダ科動物が当地で飼育されるようになったことが明らかにされました。昨年からは、パコパンパ遺跡でも動物考古学的分析が開始され、今後、ラクダ科家畜の拡散過程についてさらに詳しい状況が把握されていくだろうということでした。

 クントゥル・ワシ期とコパ期の堆積層から、大型ネコ科を含むユンガ帯に生息しない種の骨が検出されました。南米に限らず、中米においてもジャガーや蛇など、特定の動物たちは象徴的意味を担っていたと思われます。クントゥル・ワシでは最古級のサルの骨が出土しました。サルは象徴的動物で、出土の意義は大きく、アマゾンに住むシロオオマキザルは飼育されていた可能性があります。遺跡から出土する動物骨そのものを詳しく検討することで、それらの"象徴的"動物がどのように扱われていたかが具体的に明らかにでき、当時の人々の動物観、世界観の一端がかいま見えます。今後、サル以外の動物群についても、文様の研究のみならず生態や分布に注意した動物考古学的分析から、新たな研究の道筋が見えてくる可能性が示唆されました。

次回2008年6月14日(土)は徳江 佐和子 明治学院大学講師による
クスコのインカ遺跡を掘る ― ウルピカンチャ遺跡発掘調査


*受講には申し込みが必要です。詳しくは入会案内をご覧ください。