2009年12月の定例講座
パコパンパ遺跡2009年度の発見―パコパンパの貴婦人の墓―
講師:関 雄二 国立民族学博物館教授 2009年12月19日(土)
東京外国語大学本郷サテライトにて
パコパンパ遺跡は、ペルー北部、海抜2500メートルにある形成期の巨大な神殿遺跡です。編年は、T期(紀元前1200年〜紀元前900年)、U期(紀元前900年〜紀元前500年)に分けられます。遺構は三段の基壇からなり、建築の時期から、T期では、おそらく野外で行われた、誰が見ても解るような火の儀礼、Ub期では特定の人物が階段を上るという儀礼の変化、Uc期では、統率力の低下が予見されます。
パコパンパの貴婦人の墓が設けられたのは、最上段の基壇、半地下式広場の西の中央基壇の中心軸上です。被葬者は女性、20才から40才位、身長155センチ、頭蓋変形があり、口の中にクリソコラ(珪孔雀石)を含み、青色顔料(藍銅鉱)がかけられ、朱(硫化水銀)が塗られていました。副葬品は、三角状の金製の板状耳飾り、金製の耳輪、貝製首飾り、大腿部には、極小の貝製管玉のバンド。埋葬に関わる儀礼の跡もあり、層位的な発掘により、埋葬の順序も解りました。
このように、U期にはある種の地位、階層が存在するだろうという仮説が証明されました。ボランタリーな社会から宗教的リーダーを擁する社会という図式は、ワカロマ遺跡やクントゥル・ワシ遺跡とも共通しますが、パコパンパ遺跡では、宗教、イデオロギーに関わる諸側面で違いが目立ちます。なにより被葬者が女性であり、生まれながらの女性リーダーと考えられます。こうした相違に注目し、形成期の多様な社会像に迫ることができました。
来年は円形構造物の真ん中を発掘します。T期のもの、この建物を建てたとき土台に埋めたもの、墓、埋納、あるいは奉納品を探します。それらは、その時代、儀礼が直接解り、大きな情報が得られます。これからの進展が楽しみです。
次回2010年1月23日(土)は井上幸孝先生(専修大学経営学部准教授)による
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