2010年4月の定例講座
神殿を離れて山野へ:アンデス文明の岩絵研究 講師:鶴見英成 東京大学総合研究博物館 特任研究員
2010年4月17日(土) 東京外国語大学本郷サテライトにて
彩色岩絵やペトログリフなど、数種類に分けられるアンデス岩絵の研究は日本においては現在のところメジャーだとはいえないが、ペルーをはじめ世界ではその調査のしやすさから裾野の広い研究が蓄積されている。しかしそれは場所・編年・技術などの簡単な報告と図像の解釈を中心としたものであり、その機能的役割に関しては大きく言及されてこなかった。
しかし、一般に早い時期から展開する谷の中流域での定住化・神殿の建設という問題と岩絵とを関連させることで岩絵研究は新しい見解を提供する。すなわち神殿は中流域を縦断する主要なルートの要所に建てられ、岩絵はそのルート上の休息地や祭祀行う場所であるという仮説である。例えば形成期の早くに神殿が発達したことで知られるヘケテペケ谷の「アマカス複合」は谷の上・下流を結ぶ東西方向と中流域間を結ぶ南北方向のルートの交点に当たる要所として理解できるのである。その仮説の検証のために行われたモスキート平原の発掘ではアマカス複合の神殿とは異なる立地傾向やプランを持つ基壇建築が確認された。これは定住社会とは異なる移動者の実態を復元できる可能性を示している。
そこで、これまで形成期の早い時期には重要視されてこなかったラクダの存在が重要となってくる。この仮説に基づいた試論として、ロマスの多い南地域でラクダ科動物の家畜化が進み、そのキャラバンが中流域を結ぶルートを通って北に進出しそれぞれの谷で東西南北の要所となる中流域で定住化が進むというプロセスが提起された。
さらなる発掘データの蓄積と検証が必要だが、中流域での定住化社会成立の過程を考える上で注目すべき説であることは間違いないだろう。
次回2010年5月15日(土)は山本 睦先生(日本学術振興会特別研究員・埼玉大学)による
形成期研究のフロンティア、ペルー極北部
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