2010年11月の定例講座
アンデス文明の形成期 ―近年の研究展開― 講師:井口欣也先生(埼玉大学教養学部教授)
2010年11月21日(土) 東京外国語大学本郷サテライトにて
始めにアンデス文明研究の創成期にあたる、ウーレ、テーヨ、ラルコ・オイレや北米研究者等の業績と、1960年代の東大調査団よるコトシュ遺跡の「交差する手の神殿」等の先土器時代の神殿調査等が紹介されました。この50年間の日本調査団の成果は、外国の研究者からも高い評価を受けています。更に、チャビン・デ・ワンタルを調査したバーガーとリックの間では、その最盛期の編年について論争があり、未解決の問題があります。
新しい発掘成果として、イグナシオ・アルバらによる北海岸平野部のコユ遺跡、ベンタロン遺跡の発掘調査と、松本雄一氏によって2007〜8年に行われた南部山地のカンパナユック・ルミ遺跡の調査の紹介がありました。コユ遺跡からは多彩色の土製レリーフ等が発見され、そこにはクピニスケ、クントゥル・ワシ神殿に共通する六角形の籠目とその中のジャガーの図像モチーフが発見されました。また、ベンタロン遺跡では祭祀用の炉跡や捕らえられた鹿の壁画、最下層からは海岸文化を示唆する二匹の魚のレリーフが出土しました。クピニスケ文化の形成過程やこれらの遺跡とクントゥル・ワシ等の山地との関係を解明することが今後の課題です。
カンパナユック・ルミ遺跡はチャビン・デ・ワンタルからは約600km離れていますが、チャビンとよく似たつくりの回廊があります。更にチャビンのオフレンダス・ギャラリーから出土したものに酷似した骨のピンが出土し、100km離れたキスピシサ産の黒曜石も発見され、南部山地とチャビン・デ・ワンタルとがどのような関係にあったかが問題になっています。
最近では、ペルー国内で国家主導型の考古学プロジェクトがさかんになり、考古学の成果を活用した社会開発の試みがおこなわれています。
次回2010年12月18日(土)
は関 雄二先生(国立民族学博物館教授)による
パコパンパ神殿の発掘2010 |