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2013年10月の定例講座
神殿と住居域 2013年度−カンパナユック・ルミ遺跡調査速報− 講師:松本雄一先生(山形大学人文学部准教授)
2013年10月19日(土) 東京外国語大学本郷サテライト
アンデスの形成期研究におけるアキレス腱は、「神殿に関する調査研究は盛んであるものの、住居址を対象とした調査研究が非常に少ない」ということです。神殿を建立した人々がどのような生活をしていたのか、住居と神殿の関係がどうなっていたかなどは、いまだに良く分かっていません。
このような問題意識から、私はペルー中央高地南部に位置するカンパナユック・ルミ遺跡に着目し、2007年から2008年にかけて調査を行いました。 カンパナユック・ルミ遺跡の編年は、カンパナユックT期(紀元前1000〜700年)とカンパナユックU期(紀元前700〜500年)に分けることができます。神殿は中央基壇、南基壇、北基壇に分かれ、南基壇の内部からは、チャビン・デ・ワンタルとよく似た回廊が発見されました。基壇と広場を中心とした神殿の基礎はこのT期に造られたと考えられます。またII期になると、チャビン・デ・ワンタルと南海岸パラカス文化の要素が物質文化の点でも多くみられるようになります。
2007年と2008年の調査では、神殿の北と南に合計11ヘクタールに及ぶ居住域の広がりを確認することができました。また、4つの試掘坑からは住居址や埋葬が発見され、当時の人々の生活に関する重要な手掛かりが得られました。
この成果をもとに、2013年の調査では居住域に焦点を当てた調査を行いました。 南住居区では木の柵と石壁で囲われた直径5mの円形構造物の中に埋葬を含む14個もの穴が発見され、神殿とは異なる儀礼空間が存在したことが明らかになりました。埋葬はいずれも頭骨のみであり、副葬されていた土器には意図的な破壊の痕跡が確認されています。北住居区では、直径7mの円形構造物が出土し、その床面に神殿の建築を模した可能性のある土製品が2つ据えつけられていました。 また、長さ12cmもある大きな黒曜石の尖頭器が朱とともに埋納されて出土しています。こちらも単なる住居ではなく、神殿とは別の儀礼が行われた空間と考えざるを得ません。このような発見は、儀礼行為が必ずしも神殿でのみ行われたわけではないこと、神殿と居住域という単純な枠組み自体を考え直す必要があることを示唆しています。
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